2018/01/27

フトスジモンヒトリ(蛾)の幼虫は有毒植物トリカブトの葉を食べるか?



2016年9月下旬

里山で細い山道を下っていると、トリカブトの一種の葉裏にじっとしている毛虫を発見。
おそらくフトスジモンヒトリSpilarctia obliquizonata)の幼虫だと思います。
静止している毛虫は動画ブログのネタにならないのでスルーしかけたのですが、この葉に食痕があったので俄然、興味を持ちました。
トリカブトは強力な有毒植物として悪名高いのに、葉を食べる幼虫がいるとは知りませんでした。

「蓼食う虫も好き好き」という諺がありますけど、鳥兜食う虫は命懸けです。
トリカブトの毒性は根だけでなく葉を含む全草に含まれるそうです。

この毛虫が不活発なのは脱皮前の眠かもしれませんが、もしかするとトリカブトの葉を誤って食べてしまったことによる中毒症状で弱っているのか?と想像を逞しくしました。
せめて、この毛虫に触れてみて逃避行動を起こすかどうか確かめればよかったですね。
ただし、葉に残る食痕がこの毛虫による虫喰い穴とは限りません。
トリカブトの葉を食害した犯人は別にいて、徘徊に疲れた毛虫がたまたまトリカブトの葉裏で休んでいただけかもしれません。

もしフトスジモンヒトリの幼虫がトリカブトの葉を食べるのなら、証拠映像を撮りたいところです。

しかし下山を急いでいた私は、短時間の観察で切り上げました。
トリカブトの株ごと採取して毛虫を飼育することも考えたのですが、持っていたナイフでトリカブトの茎を切ると有毒な汁がナイフに付着して危険だろう(果物ナイフとして使えなくなる?)と判断して諦めました。

帰宅後に、いつもお世話になっている幼虫図鑑サイトにて「トリカブト」を食草とする幼虫を検索しても、一件もヒットしませんでした。
更に「みんなで作る日本産蛾類図鑑」サイトにて同じく「食草:トリカブト」で検索すると、ヤガ科キンウワバ亜科の4種が該当しました。
いずれも幼虫の蛾像は掲載されていませんが、おそらく毛虫タイプではなくて芋虫タイプのはずです。
フトスジモンヒトリの既知の食餌植物リストにはクワが挙げられているだけで、トリカブト類は含まれていませんでした。
やはり、今回のフトスジモンヒトリ幼虫がトリカブトの葉に居たのは偶然の可能性が高そうです。

▼関連記事(10年前の撮影)
フトスジモンヒトリ(蛾)幼虫の遁走

この機会に、トリカブトの致死性有毒成分について、少し勉強してみました。
毒の主成分はアコニチンというアルカロイドで、薬理学的な作用機序としては、TTX感受性ナトリウムイオンチャネルの活性化による脱分極を引き起こすらしい。
つまりフグ毒テトロドトキシン(TTX)とは真逆の作用です。
トリカブトの葉を食べる昆虫が少数派なのだとすれば、何か解毒する仕組みや耐性、抵抗性を獲得・進化させた結果、新しいニッチに進出したのでしょう。
とりあえず、トリカブトを食べることが報告されているヤガ科キンウワバ亜科の4種(エゾキンウワバ、アカキンウワバ、マダラキンウワバ、エゾムラサキキンウワバ)について、ナトリウムイオンチャンネルの遺伝子配列を調べてみたら面白そうです。
(アコニチンが結合できないような突然変異をしているのでは?という単純な予想です。)

しかし、ここまで書いてから気づいたのですが、トリカブトを訪花するハナバチは吸蜜しても花粉を幼虫に給餌しても平気なことを忘れていました。

▼関連記事
トリカブトを訪花するトラマルハナバチ♀
今回も映像を見直すと、毛虫の背後でトラマルハナバチ(Bombus diversus diversus)のワーカー♀が忙しなくトリカブトを訪花していました。

トリカブトの花が咲く秋の山野で採餌活動したミツバチが巣に蓄えた蜂蜜をヒトが横取りして摂取すると、トリカブト中毒によって死亡事故が起こり得るそうです。
それに対して、昆虫など無脊椎動物のナトリウムイオンチャンネルはトリカブトのアコニチンに感受性がないのかもしれません。

つまりトリカブトの殺意は、昆虫ではなく主に草食動物(哺乳類)に向けられているのでしょう。
確か昆虫にもTTX感受性ナトリウムイオンチャネルが発現しているはずですけど、昆虫とヒトでナトリウムイオンチャンネルのアミノ酸配列や立体構造はどのぐらい似ているのかな?

それにしても、トリカブトの葉を食べる鱗翅目があまり知られていないのは不思議です。
トリカブトはアコニチン以外の毒を何種類も葉に蓄積して、食植性昆虫に食べられないように自衛しているのでしょう。
(メサコニチン、アコニン、ヒバコニチン、低毒性成分のアチシンの他ソンゴリンなど)
これらの気になる問題を昆虫学者は誰も調べていないのですかね?
試しに軽く文献検索してみても、関連研究は見つけられませんでした。

今回の動画は退屈かもしれませんが、こうやってあれこれ思索するだけでも冬の楽しい暇潰しになります。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



ウドの花蜜を吸うキアシナガバチ♀



2017年8月下旬

道端で家庭菜園のように植えられたウド(独活)の株にキアシナガバチPolistes rothneyi)のワーカー♀が訪花していました。
本当は飛び立つまで見届けたかったのですけど、とにかく吸蜜に夢中です。
アシナガバチ類(Polistes属)では他にコアシナガバチ♀も訪花していたのですが、こちらは撮り損ねました。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



2018/01/26

オオモンクロクモバチの探索徘徊と身繕い



2016年7月上旬

里山の麓の道端でオオモンクロクモバチAnoplius samariensis)を発見。
沢の水が流れている路肩の水路に沿って、まだ
草があまり生えていない土手があり、蜂はそこを重点的に歩き回っていました。
本種の性別の見分け方を知らないのですが、行動から見ておそらく、獲物となるクモを探索中の♀だろうと想像しました。

▼関連記事のまとめ (6年前に同じ場所で撮影)
オオモンクロクモバチ♀がスジアカハシリグモ♀を貯食するまで

蜂は路肩を重点的に調べています。
クロオオアリCamponotus japonicus)のワーカー♀に出会うとオオモンクロクモバチの方が大きな体をしているのに、慌てたように逃げて行きました。
舗装路で立ち止まると、しばらく念入りに後脚を擦り合わせたりして身繕い(化粧)しました。
車道を足早に走り回る際は、ほぼ直線の動きです。(まっしぐら!)



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