2016/03/06

網にかかったホソヘリカメムシを捕食するジョロウグモ♀(蜘蛛)



2015年11月上旬

堤防の水門に張られた網にジョロウグモ♀(Nephila clavata)に生き餌を給餌してみました。
歩脚に欠損のない五体満足の個体ですけど、体格はやや小型の印象。(未採寸)

水門の裏面を徘徊していたホソヘリカメムシRiptortus pedestris)を生け捕りにし、ジョロウグモの網に投げつけました。
すぐに駆けつけたジョロウグモ♀はかなり長時間、獲物を噛んでいました。
その間は見ていても退屈なので、6倍速の早回し映像に加工しました。

クモに噛まれても毒液があまり効かないのか、ホソヘリカメムシは後脚を動かしてしばらく暴れています。
ホソヘリカメムシは太くて棘のある腿節を闘争用の武器としています。
しかし胸部を噛まれているため、反撃したくても武器が敵に届かず虚しく空を切るばかりです。

・(ホソヘリカメムシの)雄の成虫の後脚腿節が不釣り合いに太く、その内側に棘の列がある[2]。
・雄は雌の居場所を縄張りとし、縄張りをめぐって争う。争いでは棘がついた後ろ足で相手をはさみつけるという方法がとられ、後脚腿節が長いものが有利になる[12]。(wikipediaより)

クモに攻撃されている間、異臭を全く感じなかったので、カメムシは身を守る毒ガスを発しなかったようです。
不思議に思い調べてみると、ホソヘリカメムシは

カメムシには珍しく、匂いがない[4]。(wikipediaより)

一方、ジョロウグモは噛み付きながらときどき歩脚の先で獲物に触れて生死を確認しているようです。(歩脚の先で獲物の周囲の糸を切っているのかも?)

次にジョロウグモは獲物を梱包ラッピングし始めたものの、なぜか手間取っています。
水色のペンキで塗られた水門が背景だとジョロウグモの網も糸も極めて見え難いのですが、梱包ラッピングする捕帯の糸が殆ど出ていない点が気になりました。
レンズを至近距離まで近づけても捕帯の糸は見えません。
晩秋の餌不足でジョロウグモ♀が飢餓状態となり、出糸腺(ブドウ状腺)の糸が枯渇しているのかな?と想像しました。
あるいは産後の肥立ちが悪いのかもしれません(産卵した直後なのか?)。
ジョロウグモ♀は最小限の糸を節約して使い、時間をかけてなんとかラッピングしました。
獲物を噛んで体外消化しながら直ちに消化吸収して、泥縄式に糸を合成したのかもしれません。
ようやく毒が回り、獲物は動かなくなりました。
クモは噛みつきを止めてラッピングに専念しています。

『スパイダーウォーズ』p145-146によると、

オニグモはコガネグモと同じように攻撃ラッピングを多用するクモですので糸腺の数が多く、ジョロウグモはそれをしないので糸腺(ブドウ状腺)も少ない、とも解釈できます。噛みつきによって殺した餌の接着や梱包には、たくさんの糸は必要ないのです。


ジョロウグモ♀は円網の甑に獲物を持ち帰ると身繕い。
糸で汚れた歩脚の先を順に舐めて掃除しています。
化粧が済むと、網に吊り下げていた獲物を引き寄せ、ようやく口を付けました。




【追記】
吉田真『クモはどのようにして餌を捕らえるか?』によると、
ジョロウグモ属のクモでは、捕帯による固定はみられず、固定はもっぱら噛みつきによってなされます。しかし、このクモの網には、セミ・バッタ・トンボなどの大型の昆虫や、ハチなどの危険な昆虫、カメムシなどの不快な匂いを出す昆虫の食いかすが残されています。このことは、捕帯による固定ができなくとも、大型あるいは危険な餌を捕獲できることを示しています。(中略)大型の餌または危険な餌がかかると、このクモはなかなか噛みつこうとせず、固定には長い時間がかかります。その間に網から逃れる昆虫もいるのでしょうが、多くの糸を使った網が餌の逃亡を防ぐ効果的な罠となっているのかもしれません。 (ポピュラー・サイエンス『動物たちの気になる行動(1)食う・住む・生きる篇』p46-47より引用)


2016/03/05

ニホンザル♂を毛繕いする発情♀(求愛・誘惑・前戯)



2015年11月中旬

下山中に山の方から変な鳴き声(短い叫び声の繰り返し)が聞こえたので立ち止まって見回すと、川を隔てた遠くの岩山の斜面に猿を見つけました。
ニホンザルの警戒声または♀による求愛コールだったのでしょう。
(映像はここから。撮影中のニホンザルは鳴き声を発しませんでした。)

岩山に野生ニホンザルMacaca fuscata fuscata)が二頭座っています。
体格差のある2頭は成獣の♀♂ペアであることが後に判明します。(♂>♀)
繁殖期で発情した成獣は♀♂共に顔が紅潮しています。
群れの仲間はどこにいるのか見当たりません。
このペアは群れの本隊からこっそり離れ、人目(猿目)を忍んで逢引(密会)しているようです。



初めは並んで座りこちら(里)を見下ろしています。
小柄な♀はキョロキョロして落ち着かない様子。
川を挟んで対岸から望遠レンズで撮影している私の存在は猿から丸見えなので、警戒しているようです。
♂の背後に回った♀が、♂の毛繕いをしようと背中に手を伸ばしたら、♂が怒りました。(逆鱗に触れた?)
怯えた♀は歯を剥き出した泣きっ面で地面に伏せました。



その♀に対して♂は軽くマウント(交尾ではなく優位行動)した後、左手に歩き去りました。
大きく発達した睾丸が股間に目立ちます。
叱られたのに、♀は♂の後をついて歩きます。
♀の方が♂に惚れ込んでいる印象を受けました。
今度はこちらに背を向け、並んで座りました。
♀はときどき振り返り、カメラを気にしています。
再び♀が♂の背中の毛繕いを始めました。
このスキンシップは♀からの熱烈な求愛行動も兼ねているのでしょう。
丹念に毛皮をかき分けて甲斐甲斐しく蚤を摘み取っては食べています。(左利きなのかもしれません。)
♂も毛繕いをされながら体をよじってこちらを見下ろしています。(じろりんちょ)
映像に写っていませんが、実は下に群れの仲間が居るのです。
♀は中腰になり、♂の肩の辺りを毛繕い。
遂に♀は立ち上がり、♂の後頭部を毛繕い。
とにかく♀は尽くすタイプなのか、この♂に首ったけなのか、一方的な毛繕いを長々と続けていました。
お返しに♂が♀を毛繕いすることは一度も見られませんでした。
この直後に交尾を始めたので、求愛や誘惑、前戯としての毛繕いだったようです。
♂にその気になってもらおうと♀が必死に機嫌を取っていたのでしょう。

(今回観察したカップルがたまたまそうだっただけで、ニホンザルの恋愛事情は様々あって面白いのだそうです。)

映像だけ見ると動物園のサル山のように思うかもしれませんが、あくまでも野生の生態動画です。

※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。

つづく→交尾



2016/03/04

ユカタヤマシログモ(蜘蛛)の吐いた粘着糸で逃れられないオオヒメグモ



2015年11月上旬

ユカタヤマシログモの飼育記録#6


ユカタヤマシログモScytodes thoracica)に強力な粘着糸を繰り返し吐きつけられたオオヒメグモParasteatoda tepidariorum)は幾らもがいても暴れても逃れられません。
一方、ユカタヤマシログモは獲物の目の前で悠然と歩脚の先を舐めて掃除しています。
(容器に蓋をしたサランラップの反射が邪魔ですね…。)
やがてユカタヤマシログモが前進して獲物に右の第一脚でそっと触れ、位置を確認しています。(@1:00)
そのままお互いにしばらく静止。
獲物に噛み付いて食事を始めるかと思いきや、なぜかユカタヤマシログモは獲物から立ち去りました。(@2:15)
絶体絶命のオオヒメグモは擬死(死んだふり)していたようで、ユカタヤマシログモが離れた途端に必死で暴れだしました。

オオヒメグモも自分が紡いだ糸なら舐めて掃除できる(糸を溶かして食べる)はずなのに、いくら必死に身繕いしてもユカタヤマシログモの粘着糸から逃れられません。
ユカタヤマシログモの粘着糸は成分が特殊なのかな?
この点に興味を持ち、「Scytodes thoracica fibrin」をキーワードに検索してみると、面白そうな文献を見つけました。(後で読む)

Zobel-Thropp, Pamela A., et al. "Spit and venom from Scytodes spiders: a diverse and distinct cocktail." Journal of proteome research 13.2 (2013): 817-835.(PDFファイル
時間をかければ脱出できるのでしょうか?

戻って来たユカタヤマシログモが容器の壁にへばりついた獲物(オオヒメグモ)に歩脚の先で触れて調べたのに、しばらくすると再び離れてしまいました。
擬死(死んだふり)していた獲物が暴れだすと向き直って触れ、チェックしています。
危険はないと判断したのか離れてしまった。
その後はオオヒメグモが必死に暴れても粘着糸を振りほどけないでいます。
ユカタヤマシログモが毒腺から作り口から吐く粘着糸には毒液も含まれているので、獲物は暴れて疲れる前に毒が回ってしまうはずです。

せっかく獲物を粘着糸で無力化したのに、今回はなぜか待てど暮らせど噛み付きに来ないのが不思議です。
糸腺が枯渇したので、とどめを刺したくても吐糸できないのかな?
獲物が疲れて(毒が回って)死ぬのを待っているのかもしれません。

今回は生き餌を投入する前に二酸化炭素で軽く麻酔しました。もしかするとその影響で、獲物としての魅力が無くなったのでしょうか?(匂いが気に入らない?)
給餌したのは7日ぶりなのに、ユカタヤマシログモは空腹ではなかったのでしょうか?
捕食する意図はなくて正当防衛のつもりだったのかもしれません。
(狭い容器に無理に同居させて逃げ場もないので自衛のため止むなく吐糸で制圧した?)
冬が近づくとクモは、越冬準備のために絶食することが知られています。
もし胃の中に消化物が残っていると気温が下がった野外では氷結する核になってしまい危険なのです。
ただし、主に屋内で生息するユカタヤマシログモも越冬前に絶食する必要があるのか疑問です。
室内は厳冬期でも野外よりは暖かいはずです。


※ 動画編集時に自動色調補正を施してあります。

つづく→#7


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