2015/11/07

隠れ家で蛾を捕食しつつ網を弾くトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



2015年8月下旬・深夜00:10〜00:45

トリノフンダマシ♀の定点観察#5


夜通しの撮影で日付が変わりました。
トリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)が隠れ家で食べ続けている蛾a(種名不明)は体外消化ですっかり小さくなりました。

いつの間にか別の蛾cが近くにぶら下がっていました。
網にかかった瞬間を見逃してしまったようです。
(梱包ラッピングされていないので、私が知らぬ間にクモが隠れ家まで運んできたのではないはず。)
食事中のクモはときどき歩脚をしゃくって(糸を弾いて)網の状態(張力)を調べています。
(クモが繰り返し糸をしゃくる行動を特に抜粋して動画を編集しましたが、実際は退屈なシーンが続きます。)
遠くの水平円網にかかった獲物の有無を探っているのでしょう。
その度に蛾cが上下に揺れています。
蛾cはクモに気づかれないように擬死(フリーズ)しているようです。
それに対抗してクモも、網に獲物が未だかかっていることを確認しているのだろうと思いました。
網にかかったのがただのゴミなのか、それとも本当に獲物なのか、見分けようとしているのでしょう。
あるいは、遠くに居る別のクモと何か交信(コミュニケーション)していたら面白いです。

例えば網に侵入しようとしている♂を♀が追い払おうとしているのかもしれませんが、謎の侵入者とやらを私は見ていません。
クモが弾いている糸は円網の枠糸なのか、それとも信号糸と呼んで良いのか、横から見ただけでは分かりませんでした。
ちなみに、夜行性の蛾の複眼が光って見えるのは、蛾にもタペータム(輝板)があるのですかね?

しばらくすると、更に別の蛾dがいつの間にか網の右側にかかっていることに気づきました。(@3:00)
暗視動画では遠近感が分かりにくいのですが、蛾dには赤外線投光機の光も届かず、ピンぼけにしか写りません。
続々と蛾が網にかかり、大漁です。
今回、私は一度も撮影のために虫をクモの網に投げつけたり生き餌を給餌したりしていません。
獲物は全て飛来した蛾が自然に網にかかったものです。
トリノフンダマシが蛾の性フェロモンを放出して網に誘引しているのではないか(クモの化学擬態)と一時期疑われていたのも納得です。
しかし現在のクモ学の見解では否定されています。(CiNiiへのリンク、全文PDF

宮下直, 坂巻祥孝, and 新海明. "トリノフンダマシはガを誘引しない. Evidence against moth attraction by Cyrtarachne, a genus related to bolas spiders" Acta arachnologica: organ of the Arachnological Society of Eastern Asia 50.1 (2001): 1-4.
動画の合間に、網にかかった蛾cの写真を撮りました。
後で気づいたのですが、レンズフードを装着したままだとストロボ光が蹴られてしまい、下側に光が回りません。
蛾はなんとなく、ハマキガの仲間でしょうか?
(単なる当てずっぽうで、真面目に検討した訳ではありません。)
蛾の性別も不明です。

つづく→#6:食べ残しを捨て次の獲物を捕食するトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



網戸で鳴く♪アブラゼミ♂2015



2015年8月中旬

網戸の外でアブラゼミ♂(Graptopsaltria nigrofuscata)が喧しく鳴いています。
カーテンを捲ってビデオカメラをそっと近づけたらセミは警戒して横歩きし、桟の陰に隠れようとしました。
網戸を少し登ると安心したように再び鳴き始めました。
(もしかするとセミには網戸の裏側なんか見えてなくて、鳴き声の一小節ごとに位置を変える習性があるのかもしれません。)
当然ながら逆光でしかも網戸越しなので、発音器の腹弁の動きがよく見えません。(ビデオカメラのライトを点灯したらセミは逃げてしまうかな?)
鳴き終えて飛び立つまで動画に記録しました。
気温を測り忘れました。
飛び立つ瞬間に小便を排泄していない…と思います。
セミの排尿シーンをハイスピード動画に撮ってみたいと常々思っているのですが、木で吸汁している個体を狙うべきなのでしょう。



アブラゼミ♂の鳴き声を声紋解析してみる



オリジナルのMOVファイルから音声をWAVファイルにデコードしてからスペクトログラムを描いてみました。


まず全体の波形を見ると、最大音量で鳴き続けるサビのパートは毎回約30秒間と決まっているようです。
セミも疲れてしまうのでしょうか?

音量を抑えた間奏もほぼ同じ時間(少し長い)でした。
次に最後のサビの前後だけ切り出したスペクトログラムを描いてみます。



今回使用したビデオカメラは内蔵マイクで録音した音声を圧縮・劣化せずに保存しているという特長があります。
3年前に別のカメラで調べた声紋では非可聴域の高音部がカットされていたので、この点でささやかながら進歩しました。

2015/11/06

網にかかった蛾を梱包し隠れ家に運ぶトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



2015年8月下旬・深夜23:44〜23:59

トリノフンダマシ♀の定点観察#4


トリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)の水平円網が完成してほどなくすると、獲物が網にかかりました。
クモは甑から駆けつけると、片側が切れた粘着糸に吊り下げられた蛾aを手元に引き上げます。
噛まれて毒液を注入されたのか、蛾は暴れません。
クモが梱包ラッピングを始めたのに、ピントが合わなくなりもどかしい…。
本種はコガネグモ科なのに、捕帯があまり発達していないらしい。(粘着糸に投資した結果)
手際よく梱包した獲物を糸で吊り下げたまま甑を経由して隠れ家に戻り始めました。
綱渡りの途中で、別の蛾bが網にかかる決定的瞬間がたまたま撮れました。(@2:01)

蛾の自衛戦略として、剥がれやすい鱗粉を身に纏うことで通常のクモの網にかかっても逃れる確率を高めています。
しかしトリノフンダマシの水平円網にかかった蛾は激しく暴れても強力な粘着糸から逃れることができません。
トリノフンダマシの水平円網は飛来する夜蛾を捕らえる罠としておそろしく効率が良いようです。(※追記参照)
暗視カメラによる撮影ですから、光で蛾が誘引された可能性は低いです。(ただし、ビデオカメラの液晶画面だけ明るい。)
クモは新しい獲物に急行せず無視し、ひたすら隠れ家を目指します。
円網の左端にある隠れ家(ヤマグワの葉先)に到着しました。(@2:20)
獲物を吊り下げた糸を桑の葉裏の不規則網にしっかり固定してから、その糸を手繰り寄せました。
早速、獲物に噛み付いて体外消化を開始。



右にパンすると、先ほど網にかかった蛾bがぶら下がっています。
恐らく擬死(フリーズ)しているのでしょう。
下手に暴れると振動でクモに気取られてしまいます。
動画撮影の合間にストロボを焚いて写真撮影したら、網にかかっていた蛾bが突如激しく暴れだし、自力で粘着糸を振り切り脱出してしまいました。
隠れ家のクモは異変を感知したはずですが、食餌に夢中で駆けつけたりしませんでした。




最後は白色LEDを点灯して撮影。
2つの卵嚢が吊り下げられた隠れ家でクモはぶら下がった体勢で獲物から吸汁しています。
獲物をくるくると回しながら噛む場所を微妙に変えています。
ラッピングされた獲物は体外消化されて、もはや原型を留めていません。
蛾の種類は分からず仕舞いでした。

トリノフンダマシ♀が甑に占座していたのは水平円網が完成してから最初の獲物がかかるまでの短い時間だけでした。

円網の中心(こしき)で食事を摂らず、隠れ家に持ち帰って捕食するのは卵嚢ガードの一環でしょうか?
未交接の処女♀や産卵前の♀は甑に留まって捕食するのかな?
昼行性の造網性クモが天敵を恐れて隠れ家で食事をするのは分かるのですが、夜行性のトリノフンダマシが恐れる天敵は何でしょう?(コウモリ?)

水平円網の写真を撮ると、獲物がかかったせいで網が一部破損していました。


網を横から
網を下から見上げる

徹夜の観察中は藪蚊の襲来に悩まされました。
虫除けスプレーを噴霧する際は、クモや獲物(蛾)の行動に悪影響を及ぼすことを恐れて、トリノフンダマシの網から風下に離れてから使用しました。(杞憂かもしれません)

つづく→#5:隠れ家で蛾を捕食しながら網を弾くトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



※【追記】
『スパイダー・ウォーズ』p69によると、
このクモの主な餌はガの仲間ですが、ガの得意の逃避術、すなわち鱗粉を残しての逃亡は、トリノフンダマシには通用しません。それほどヨコ糸の粘着性がつよく、外れたヨコ糸が身体に絡み付くからです。クモはその威力に自信を持っており、ゆっくりと歩み寄ってヨコ糸を引き上げ、ガを捕らえてしまいます。

【追記2】
『クモの科学最前線』p52によれば、
蛾は一般にクモが最も捕えにくい昆虫である。クモでは蛾への明確な特殊化が、コガネグモ科で2回起きているだけなのは、そのためであろう。トリノフンダマシ亜科は、全てが蛾の専食者である。

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