2014/06/14

群れで柳の葉を食すヒオドシチョウの幼虫



2014年5月下旬

湿地帯に生えた柳(種名不詳)の葉に黒い幼虫が群がっていました。
ヒオドシチョウNymphalis xanthomelas japonica)の幼虫です。
若い柳の樹高は目測で2〜3m。
食欲旺盛の幼虫が柳の葉を食べ進む様子を接写してみました。
枯れかけて?黄色くなった柳の葉も気にせず食べ尽くします。

体表のトゲトゲは天敵から身を守るためだと思われますが、実際に飛来したアシナガバチを撃退したシーンを目撃しました。
このときヒオドシチョウ幼虫の集団は一斉に体を左右に振って威嚇していました。※
一方、寄生バエ♀も飛来し幼虫に産卵したようです。(映像なし)
集団生活すると寄生率が上がりそうな気がするのですけど、実際のところはどうなんでしょうね。
刺だらけの仲間と群れる際に「ヤマアラシのジレンマ」にならないのか心配になります。
見ていると互いに背中を跨いで乗り越えたりして、刺をさほど気にしないようです。


※【追記】
天敵に対する幼虫の威嚇行動について『日本動物大百科9昆虫II』p48によると、
ヒオドシチョウでも体前半部を持ち上げ、激しく震わせ、口から緑色の液を出す。

『チョウのはなしII』p69-70(第11章:幼虫の保身術)によると、
触れた瞬間に(ヒオドシチョウの)幼虫群はいっせいに体をふるわせ、枝々が揺れ動き、ジャーッという音がします。中には胸部をもち上げ、上を向いて口に緑色の液体をつけている個体もいました。一匹の幼虫を驚かしても群全体に振動が伝わり、多くの個体に伝わる間に振動が増幅されて枝も震わす。これは群全体に対する一種の警戒信号であると同時に、天敵への集団脅威とも考えられます。 はたして、いかなる種類の天敵に通用するのでしょうか。よく観察すると、アシナガバチ類の接触に対してよく振動を起こします。また、ヤドリバエのような寄生性天敵が傍らを飛んでいるだけでも、その気配を感じたように素早い反応を示します。



【追記2】ヒオドシチョウ幼虫の棘状突起について
翌年、幼虫を採集して飼育を始めました。
その恐ろしげな見た目とは裏腹に、指で棘状突起に触れても全く痛くないことが分かりました。
私にはとても意外な発見で、なんか「騙された!」という気になりました。
心理的なブラフ(こけおどし)の効果はあるかもしれませんが、「痛くない」とばれたら鳥などは平気で捕食しそうな気がします。
イラガなど激痛をもたらす棘をもつ毛虫に擬態しているのでしょうか?
天敵に対する防御として実際にどのぐらい有効なのでしょうか?
それとも棘状突起は、少しでも寄生蜂やヤドリバエに産卵されないための対策なのですかね?

『水場に集まる生きものたち』p12によると、
家の屋根にとまっていたスズメの群れが、近くのシダレヤナギにいた(ヒオドシチョウの)幼虫を次々に食べるのを観察したことがあります。毒があるわけではないとげは、食べても特に痛いわけではないことを知ったり、また見なれてしまった敵には、効果が少ないのかもしれません。とげひとつだけでも、まだまだわからないことが多いのです。



卵鞘をぶら下げて歩くヤマトゴキブリ♀




2014年5月中旬

羽化してから10日後、ヤマトゴキブリ♀(Periplaneta japonica)の腹端から何か白っぽい物が脱腸のようにはみ出ていました。
産み始めの卵鞘は白い球体状で、少しだけ茶色に色づいています。
♂との求愛行動や交尾を観察する前に♀が卵鞘を産み始めてしまいました。
本種は♀だけで単為生殖が可能らしいのですが、普通に考えれば同居♂と交尾しているはずです。

産卵の過程や卵鞘の色の変化を微速度撮影したいところですが、♀が動き回るので断念。
仕方なく、数時間ごとに撮った短い映像をつなぎ合わせることにします。
やがて白い膜が破れて中から茶色の卵鞘が現れました。
♀の腹端の一部が裂けたように見えましたが、よく見ると蝶番のように外側に開く仕組みになっています。
産み終えたらこの蝶番は閉じるのでしょう。
♀は腹端に卵鞘をぶら下げたまま持ち歩いてガードします。



翌朝になると、腹端の卵鞘が無くなっていました。
卵鞘ガードは1日だけ行うようです。(これは毎回の産卵で同じ。)
腹端に卵鞘をぶら下げて持ち歩く点はコモリグモ♀が糸でくるんだ卵嚢を持ち歩く様と似ていると思ったのですが、ガード期間は異なりますね。
収斂進化なのでしょう。
当初は卵鞘をどこに隠したのか見つけられず、♀が食卵したのかとやきもきしました。
8日後、ようやく朽木の表面に産み付けられている卵鞘を発見しました。
卵鞘の表面には木屑が丁寧にまぶしてあり巧妙に偽装隠蔽されていたため、見落としていたのです。
腹端にぶら下げているときの卵鞘は乾いているように見えます。
朽木に産み付ける際には粘液または唾液で卵鞘をくっつけるのだろうと想像しました。

次に問題になるのは、産み付けられた卵鞘の表面の木屑です。
朽木に放置された後でゴキブリが歩き回る(踏みつける)結果、卵鞘が自然に汚れるのでしょうか。
わずか数時間でここまで満遍なく汚れるとはとても考えられません。
母親が意図的に木屑をまぶしているはずです。

卵鞘の表面は明らかに木屑なので、糞を塗りつけているのではないと思います。
以前、ヤマトゴキブリが朽木の樹皮を採食する行動を観察しました。

▼関連記事朽木を食べるヤマトゴキブリ♀
おそらく♀が夜間に朽木から噛みちぎった木屑を卵鞘の表面に丹念に塗りつけるのだろうと推測しました。(追記2、3を参照)
今まで読んだゴキブリ関連の本にはそのような隠蔽行動をするとの記述はありませんでした。(新発見?)
きっと、朽木を入れてゴキブリを飼育する人が今まで少なかったのでしょう。


餌を充分に与えてやるとヤマトゴキブリ♀は多産で、数日間隔で次々に卵鞘を産み落とします。
卵鞘の産み付けおよび隠蔽工作を証拠映像に残したくて挑戦しているのですけど、今のところうまくいきません。
最大のネックは撮影用の照明で、暗くしないと卵鞘を産み付けてくれないのです。
赤外線の暗視カメラが欲しいなぁ…。
食餌などは明るくても行うようになってくれたのですが、完全には照明に慣れてくれません。
もう一つの難点は、ヤマトゴキブリ♀は朽木の割れ目の奥など安全な隠れ家に潜んでいる間に卵鞘を産み付けることです。
物陰にこっそり隠れてやる行動を動画に撮るのは至難の業です(撮影アングルが確保できない)。



産みたての卵鞘は本で読んだ通り柔らかく、ピンセットで摘むときにプチッと潰れやすいので注意が必要です。
すぐには孵化しないので、日数が経って固まってから卵鞘を朽木から剥がして採取するようにします。
記念すべき一つ目の卵鞘はエタノール液浸標本にすることにしました。
浮くかと思いきや、意外にも70%エタノールよりも比重が重く沈みました。
固定されたら卵鞘の中を開いて卵を数える予定です。※

ヤマトゴキブリは1卵鞘あたり生まれてくる幼虫は20匹以下と非常に少ないが、一生の間に20個以上の卵鞘を産むそうです。


【追記】
※ エタノールで脱水固定された卵鞘の皮を切り開いて中身を調べてみました。
卵は9個×2列=計18個ありました。
卵の大きさは1×3mm。

講談社現代新書『ぼくらの昆虫記』に著者がヤマトゴキブリの飼育体験を記した章があります。
産卵後しばらくすると卵鞘を割っても、中の卵は比較的よく形を保つ。こうしてとりだした卵は、大きな卵鞘で14個、小さな卵鞘で8個が入っていた。また、一つ一つの卵は、細長い卵形をしており、その長径は3.7mmほどであった。(p72より)


【追記2】
ネット検索すると、「昆虫学講座 第5回ゴキブリ目」と題したPDFファイルで以下の記述を見つけました。
(ヤマトゴキブリ♀は)卵鞘を尾端から1日足らずではずして木材などにはり付ける。
【追記3】
クロゴキブリの飼育記録をまとめた本『ゴキブリを調べる』p20によると、
(クロゴキブリ♀は)うす暗く、やわらかで、てきとうな温度と湿度のあるところをさがして、卵のさやをおとします。おとすときには、紙きれや、ごみなどをだ液でまぜ、卵のさやにつけて、カムフラージュします。そして、かくれるものの内側やパンの上、戸棚のすみ、ひきだしのおくなどにくっつけます。


 【追記4】
盛口満『昆虫の描き方: 自然観察の技法II』p55によれば、

越冬幼虫から飼い始めたヤマトゴキブリは、春になると羽化し、さらに交尾をして、産卵をし始めた。飼育ケースの中には、折り曲げた画用紙をシェルター替わりに入れていたが、その表面に卵鞘が産み付けられた。また、卵鞘の表面には、紙の断片が張り付けられていた。

2014/06/13

線路を歩くキジ♂(野鳥)



2014年5月下旬

単線の線路沿いを歩いていて、キジ♂(Phasianus versicolor)が縄張り宣言で鳴く大声を聞いた直後に鳴き声の主を見つけました。
砂利を盛った線路の上に立ち、正面からこちらを見据えています。
近くの道を車が通っても平気です。
目の前で母衣打ちを披露してくれるかなと期待したものの、警戒して斜面の向こう側に隠れてしまいました。
すぐに線路へ登り直すと、キジ♂は小走りに立ち去りました。
身を屈めて小走りになるのは単なる逃走ではなく、♀を発見して追跡中なのかもしれないと想像しました。
(今回私からは♀の姿は見えませんでした。)

▼関連記事
田んぼで♀の尻を追いかけるキジ♂(野鳥)
♂は一瞬立ち止まると背伸びをしました。
やがて線路の向こう側の斜面に姿を消しました。



ランダムに記事を読む