2017/08/16

街中の側溝で鳴くケラ♂の謎:#1【暗視映像】



2017年5月下旬・午後22:30頃・晴れ

夜道を歩いていると自然度の低い市街地でも道端の側溝からジー♪というケラGryllotalpa orientalis)の単調な鳴き声が響いてくることがあります。
田園地帯の畦道ならケラが鳴いていても別に不思議なことではありません。
しかし土や草もろくに無い人工的な水路で果たしてケラが生息できるのでしょうか?
やはり数日後にはその鳴き声は聞こえなくなってしまいます。
また、側溝からケラの鳴き声が聞こえる地点は毎年違うのです。
実は去年の同じ時期に気になり始めた現象なのですが、去年は証拠映像を撮り損ねてしまいました。

今年は団地の横の側溝の中から二夜連続でケラが鳴いていました。
まず赤外線の暗視動画で鳴き声を記録してみます。
ケラは♀も鳴くそうなので、性別は不明です。
北海道大学出版会『バッタ・コオロギ・キリギリス生態図鑑』によると、

(ケラの)♀にも翅に発音器があるが、♂ほど発達していない。(中略)湿った草地や田畑などの土中にすみ、灯火に飛来する。♂は長くジーーーと鳴き、♀は短く断続的に鳴く。(p312より引用)


続けて白色LEDを点灯してもケラ♂は眩しい光を気にせず鳴き続けました。
残念ながらケラがどこに隠れているのか姿は見つけられませんでした。
天気は晴れ。
温度計を忘れてしまいましたけど、雨上がりのため体感の気温は高くなかったです。
幅50cmの側溝には水が流れておらず、暗渠の蓋が金網になっている部分の下には雑草が生い茂っていました。
先程まで降っていた雨の水滴が雑草に付着して光っています。
一方コンクリートで蓋された部分では光合成できないため草は生えていないはずです。
夏は大雨が降らない限り、この側溝は干上がってしまうのでしょう。
もしかするとケラが辛うじて生息できる安全な環境なのかもしれません。
しかし後日にまた再訪すると、ケラの鳴き声は聞こえなくなっていました。
この枯れ水路(支流?)を辿ると水の流れる側溝(融雪溝)につながっていました。

私が推理したシナリオは以下の通りです。(あくまでも個人的な作業仮説です)
ケラが道端の側溝で鳴き始めるのは、ちょうど近隣の田んぼに水を入れ代掻きした(今年は5月中旬)後である点に注目しました。
春まで田んぼの地中で暮らしていたケラが突然の増水に流されて農業用水路から更に下流の融雪溝に流されて来たのではないでしょうか?
ここ雪国では冬の除雪作業に備えて融雪溝が町中に縦横無尽に張り巡らされているのです。
各家庭が雪かきしたその雪を捨てて融かしたり大きな川まで流すための水路です。
ケラは泳ぎも達者らしいので、なんとか溺れずに水から上がれた地点でケラが途方に暮れて鳴いている、という推理です。
当然、そんな人工的な場所に単独で漂着しても繁殖できず、すぐに死に絶えてしまいます。

ケラの鳴き声が聞こえた側溝から上流にどんどん辿っていけば、私の予想では水田に行き着くはずです。
ところが実際に調べようとしたら、意外に難しいミッションでした。
側溝が交差点の下を暗渠(地下水路)でくぐる時にどの方角から流れているのか(交差点を直進するのか曲がるのか分岐しているのか)、素人には外から分からないのです。
役所で尋ねれば側溝や融雪溝の詳細な地図を閲覧させてもらえるのかな?

逆に、生きたケラに超小型の電波発信器やGPSを括り付けて田んぼから流れ出る用水路に放流し、街中の側溝まで辿り着けることを証明できればエレガントです。
必ずしも生体を使わなくても、小さな浮きや追跡機器を流してみるだけで充分かもしれません。
この方法論は、ポリネシア人の起源について南米渡来説を立証するために海洋人類学者のヘイエルダールが自作のイカダで南太平洋を漂流した壮大な実験(コンティキ号の冒険)と同じ発想です。
しかし水入れした田んぼから小型GPSを水路に流してもすぐに途中で引っかかったり紛失したりして、文字通りお金をドブに捨てる実験になるだけかもしれません。
もし私の仮説が正しいと分かれば、春に田んぼから流れ出る排水口に網や柵などを適切に設置すれば、ケラの犠牲を少なくすることができそうです。
ケラは未だ絶滅危惧種には指定されていませんし、田んぼで野鳥などの天敵に捕食される数に比べたら微々たるものかもしれません。(調べてみなければ分かりません)

別なシナリオも考えられます。
ケラは夜の灯火に向かって飛んでくるらしいので、自力で配偶者を探したり分布を広げようとしたり試行錯誤している最前線なのかもしれません。

路上を歩いてきたケラが側溝の金網から落ちた可能性もありますね。(側溝の横は団地の駐車場のケヤキ並木で、貧弱な自然が申し訳程度に残っています。)
今はケラが越冬から目覚めて活動を始める時期だとすれば、各地で鳴き始めるのは当然でしょう。
このシナリオBをどうすれば否定(または実証による肯定)できるのか、今のところアイデアが思いつきません。
何か良い案がありましたら教えてください。

先述のように、もし全ての田んぼの出水口にケラが入り込まないようにしっかり対策した結果として街中の側溝で鳴くケラが居なくなれば、シナリオAで間違いないでしょう。(言うは易く行うは難し)

つづく→#2



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