2012/11/17

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#3:再搬入失敗



2012年8月上旬

巣穴の横にある木片の上で寄生ハエ♀が待ち伏せしています。
ジガバチ♀が木片に登ると蝿は逃げて行きました。

茂みに隠しておいた獲物の元に戻った蜂は、大顎で大事そうに咥えます。
麻酔が不完全だったようで、たまに獲物の下半身が激しく蠕動します。@1:53-2:12
それを蜂が不思議そうに見つめていますが、再麻酔手術は行いませんでした。
芋虫の上半身は完全に麻痺しているようです。

ジガバチ♀を個体識別するため、遅まきながら標識することにしました。
蜂を一時捕獲・麻酔せずに隙を見て直接、水色の油性ペンでマーキングしました。(映像なし)
腹背を狙ったつもりが手元が狂い、蜂の翅先および獲物の体表もインクで汚れてしまいました。

隠した獲物を後生大事にガード

個体標識直後(水色)
 しつこい寄生ハエをまいた(ほとぼりが冷めた)と判断したのか、母蜂は再び巣坑を目指して獲物を運び始めました。@2:50
先程埋め戻した巣口まで辿り着くと、獲物を地面に置きました。
横に転がっている松ぼっくりが目印です。
しかしすぐに天敵のアリや寄生ハエが獲物に集って来るため、ジガバチ♀は気の休まる暇がありません。
閉塞石を手早く取り除きます。
前回同様、大きな閉塞石は巣口の横に置き、小さな閉塞石はわざわざ飛んで捨てに行きます。
時間がかかるし、貯食後は埋め戻す作業が残っているのに無駄な行動に思えてしまうのですけど、ジガバチなりに何か理由があるのでしょう。
蜂が作業の手を止めると、2匹の寄生バエが歩いて近寄ってきました。@6:01


再搬入
堪らずジガバチ♀はまたもや獲物を持って逃げ出しました。
何という無間地獄…。
前回の逃走とは方角が違います。
3匹の小さな寄生ハエがピョンピョン飛び跳ねるように早足でその後を追います。
蜂が不在の隙に巣坑に幼虫を産仔しておけば良いのにと思うのですが、寄生ハエの方も確実を期して産みつけるタイミングはジガバチが巣に獲物を搬入した後とプログラムされているようです。(※ 下記の参考動画は必見!)

必死に逃避行する蜂が獲物を地面に置いて再麻酔手術を行いました!@6:52
獲物の背側から跨り、腹部を強く曲げて芋虫の腹面を走る中枢神経系をめがけて毒針を突き刺しました。
その様子を近くで寄生ハエが見守っています。

ここで残念ながらカメラのバッテリーが切れてしまいました。(痛恨のミス…)
ほとぼりが冷めるまで待ったのに、寄生ハエに待ち伏せされて、ジガバチ♀の持久作戦も水の泡でした。

ジガバチvs寄生ハエの知恵比べ、根比べに震撼しました。
息詰まる死闘です。

同定してもらうために、寄生ハエ♀1匹を採集しました。
素人目にはドロバチヤドリニクバエとは別種のような気がします。

いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂」掲示板にて問い合わせたところ、茨城@市毛さんより次の回答を頂きました。

恐らく,ドロバチヤドリニクバエと同じニクバエ科のヤドリニクバエ亜科の1種だと思います.Fauna of Indiaを見ると,この仲間は交尾器の他に腹部斑紋にも種の特徴が出るようなので,専門家が見ると種まで解るのではないかと思います.
また,額が広いのも特徴的に見え,Kurahashi(1970)に図示されたSphenometopa matsumurai シロオビギンガクヤドリニクバエの♀の頭部と酷似しているように見えます.

さんごさんからも以下のようにご教示頂きました。
私もSphenometopa matsumurai に1票入れたいと思います.
本種の♀は見たことがないのですが,♂はこれとよく似た腹部の斑紋をしています.ただし♂は腹部の白の部分がもっと純白な感じですが.
ぜひ交尾ペアを採集していただいて,♂の画像を再び投稿してください.たしか本種のホストは未知ではなかったでしょうか(知らないのは私だけ?).もし本種と特定できれば大変貴重な記録ではないかと思います.
♀が歩いてハチを追尾するのですね.何かかわいい感じですね.アナバチヤドリニクバエやシリグロヤドリニクバエの場合は飛行して追尾します.とても面白いものを見させていただきました.どうもありがとうございます.

写真の個体は,頭部が茨城@市毛さんのご指摘のとおり,Kurahashiのレビジョンのシロオビギンガクの♀にドンピシャで,私の持っている同種の♂にも斑紋が酷似していますが,市毛さんがご指摘のように,♀から種の判定まで持ち込むのは専門家でないと厳しいです.

日本には同属は1種のみとされていますが,ときどき本邦から記録がなかった種がみつかったりしますので,現時点でシロオビギンガクとは言い切れないです.産仔の場面に遭遇しても,その時点で種がなかなか確定できないのが,このグループの生態を研究する上でブレーキになっています.
「おそらく」シロオビギンガク♀だろう,という程度と認識していただけたらと思います.
ぜひ♂をゲットしていただいて,その映像(交尾器を含め)をご投稿くださることを願っています.



つづく

胸背


側面

側面

右翅

左翅

腹背

単眼

顔(左右の複眼は離れている)

腹面



【参考動画】by UraniwaKansatsukiさん


サトジガバチがイモムシを巣穴に運びこむ隙に寄生バエが産仔する瞬間が見事に記録されています。



【追記】
『日本動物大百科9昆虫II』p150によると、
ヤドリニクバエ類の♀は、巣づくり中のジガバチやハナバチ類のあとをつけ、巣の入り口に空中から1齢幼虫をばらまいて侵入させる。



0 件のコメント:

コメントを投稿

ランダムに記事を読む