2010/12/26

ヒメベッコウの巣から羽化したホシツリアブとヤドリクモバチ




2010年6月下旬

ヒメクモバチ(旧名ヒメベッコウ;Auplopus carbonarius)の繭#8に寄生していたツリアブが遂に羽化しました。
室温26℃。
前回の反省を生かし、足場として丸めたティッシュを予め容器内に入れておきました。
翅が充分に伸展して徘徊行動も動画に記録できたら、同定に必要な翅が破損する前に標本にしました。



いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂BBS」で写真鑑定してもらうと、これもホシツリアブAnthrax distigma)と教えて頂きました。



一方、残りの繭#2, 4からは見慣れない蜂が羽化してきました(6月中旬)。

↑ヒメベッコウの繭#2から羽化した寄生蜂

↑ヒメベッコウの繭#4から羽化した寄生蜂


蜂類情報交換BBS」にて問い合わせたところ、ヤドリクモバチ属 Irenangelus punctipleuris であると専門家に同定して頂きました。
ヒメクモバチの泥巣に托卵(労働寄生)する南方系のクモバチなのだそうです。 
以下コメントを引用。
写真の種はIrenangelus puctipleuris Wahis, 2007に間違いありません.この種は私どもの論文 Shimizu, A. & Wahis, R. (2007) Journal of Hymenoptera Research, 16: 311-325で,新種として記載したものです.別の方からも,ヒメクモバチ(ヒメベッコウ)の巣から羽化したとの情報をいただいています.本種はインド,マレー,フィリッピンなどから日本(本州の福井県まで)分布しています.東南アジア産の標本を多数調べましたが,日本産のものと形態学的に区別することができず,同種としました.南方系の種と考えてよいと思います.Irenangelusヤドリクモバチ属はCeropalesヌスミクモバチ属に近縁です.
 ヤドリクモバチが寄生するチャンスは,ヒメクモバチがクモを運搬している間か,ヒメクモバチが貯食・産卵した後に最初の泥玉を運んでくるまでの一瞬しかないように思います.寄生のタイプは”追い剥ぎー托卵”型で,寄主が運んでいるクモの書肺の中に産卵するわけです.ヒメクモバチがクモを運搬している間は,そのハチが,歩脚を切断したクモの腹面にまたがっていますので,ヤドリクモバチが産卵するのは難しそうです.そうなると,ヒメクモバチがクモを泥つぼ(独房)に搬入した後のわずかなすき間に産卵する可能性が高いです.次の機会にぜひお調べになりませんか.記録はビデオカメラの方がよいです.産卵の瞬間はおそらく1秒以内と思われ,カメラですと,この,きわめてまれな幸運の,瞬間を逃すおそれが大ですので.この記録はきわめて貴重なものになります.

残る二つの繭は萎びた状態で何も羽化しませんでした。 
結局、6個の繭から無事に羽化した寄主(ヒメクモバチ)は一匹の♂だけで、高い寄生率でした。
(シリーズ完)



【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p32-33によると、
・ヌスミベッコウ属は、ほかのベッコウバチが運搬しているクモの書肺内に卵を産み込む。クモの所有者は、そのあとなにごともなかったかのように巣をつくるが、育房内では寄生者の卵が先に孵化して、所有者の卵を殺したうえでクモを食べてしまう。
造巣先行型では、クモを奪われる危険は減るが、多房巣になったために、いったん寄生者に巣を発見されると、多くの育房が寄生を受ける危険が増す。ヒメベッコウでは、ヒメバチ類やコバチ類の寄生によって巣が全滅することもある。



【追記2】
『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』第13章 清水晃「クモを狩るハチたち」によると、
托卵寄生性のヤドリクモバチ(中略)類はクモの腹部にある呼吸器官(書肺)のスリット状入り口に腹端部を挿入して産卵する。 (p284より引用)
一般向けの書籍でこんなマニアックな蜂の話を読めるとはありがたいです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ランダムに記事を読む